「風と土と」 2024年 ニコンサロン
展示構成:デザインブ 山本淳平
容易ではない自然との共存。田畑を荒らす獣とのせめぎ合いの中で、環境に対してコントロールではなくコミュニケーションを重ね、静かに命が循環します。豊かで複雑な島根のかたちを、ひそやかな個々の営みを紡いで提示します。
「陰と陽と」 2024年 堀川御池ギャラリー
額装ディレクション:POETIC SCAPE 柿島貴志
あたりまえの風景にも歴史は潜んでいます。営みの素地となり、しかし望み通りになっているとは限らない現在にどうつながっているのか。その過去を知るには能動的でなければなりません。そこから未来はどう広がるのか思いめぐらせます。
「鐵と稻と」 2024年 奥出雲葡萄園
素材:砂鉄、米糊、稲藁紙
島根・奥出雲地方では、たたら製鉄用の砂鉄採取で切り崩した山を棚田に転用してきました。人類の基盤となった鉄と稲の有用さ。雲南で採れた砂鉄に、仁多米を糊にして混ぜ、安来で漉いた稲藁紙へ定着させたシルクスクリーンで表します。
人間と自然の営み、ひそやかに――。 激しい日照りの下、わたしは古来の製鉄技術「たたら」の文化が残る島根の山あいを歩いていた。不意に心地よい風が、肌にまとわる汗をなでた。気づけばそこは集落の入り口。なるほど、気候と地形に恵まれた空間で生き物は育まれ、また土地を利用するのも当然だ。風土という言葉の存在理由が腑に落ちた。
ここにいると、自然は人間が操るものではなく、意思疎通の対象という認識がしっくりくる。今でも、半夏生に山で刈った笹で巻く団子がふるまわれ、米が穫れれば神在月のころ、わらでなった大蛇を杜に供え、ゆっくりと土へ還していく。ただ、風土の流転は過疎地に厳しさも突き付ける。ツタが空き家を覆い、残された果樹が獣を呼び寄せ、田畑は喰い荒らされていく。これはある意味、豊かさを物語る。だってそう、生物の多様性や復元力は、土(守る力)と、風(変える力)が摩擦する場所でこそ、確かなものとなるのだから。
この眼差しを社会生活に向けてみる。老いと若き、先住者と移住者、双方の論理をわかり合うまで擦れて生まれる力が、地域の課題を解く時がある。まさに島根ではそんなたくましい人たちにたくさん出会えた。都市に比べれば、ひそやかかもしれない。でも確実に、豊かな営みがそこにはある。
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